ペルディード・ストリート・ステーション

この野良さんは尻尾が不随でした。
虐待されたのか、事故か、先天的ではないもの。
人間に対するおびえが表情に見え隠れします。


読書記をひとつ。
書名は「ペルディード・ストリート・ステーション」著:チャイナ・ミエヴィル、訳:日暮雅通
早川書房から。
スチームパンク」というキーワードに覚えのない方は興味を持ちづらいかもしれません。
よって近代ファンタジーに興味のない方はこの先を無理に読まれる必要はありません。
イラストは表紙から背表紙にかけて続いている一枚しかないのですが、こんな感じです。※表紙です。
http://ec2.images-amazon.com/images/I/51NlSVmMqsL._SS500_.jpg
鈴木康士氏のイラスト、と聞けば、このブログをご覧の方のうちごくごく少数がうなずかれるに違いありません。
恐るべき才能の割に評価されていない(と自分は思っている)絵師さんです。
pixivの人気絵にも、こういう作品がありますよね。
ファンタジックで壮大な絵だけじゃなく、人から何からなんでも描ける方です、念のため。
ELEGANT (こちらはイラスト作家さんのサイトになります)


で、イラストに見合った超弩級のストーリーが語られます。
あらすじを語るのは脇に譲って、感想ですが……。
一言で言うと大人のためのファンタジー
ただ、あらゆる方向への密度が凄い。
自分は以前借り物の設定で島京とか書いてましたけれど足元にも及ばない。
なんせニ段組の650ページ。
世界観の密度であったり、理論的な密度であったり、もちろんシナリオとしての密度も。
流石に押さえきれないところもちらほら見受けられますが、この世界観はシリーズものだそうだから問題はなし。
無論単体で読んでも全く破綻のないストーリーです。
予定調和をギリギリまで裏切る、見切り方の感覚は並外れている。


世界観に触れるだけでも読む価値有ですので、スチームパンクでゴシック調の文章やイラスト作者にお勧めです。
ストーリー展開はどんな一般人も面白く読めるでしょう。
ただし、グロテスクな描写が多々(笑)ありますので、そういうのはちょっと……という方は手を出さないほうが。


多分現在のこういうジャンルの文章書きでは第一人者じゃないかな。
頭の中に、一つの独立した世界を構築しきっている。
で、ストーリーが語れる。
どちらかだけでも凄いですが、両立してると読む者を圧倒しますね。
人格存在の描写はまだ浅いというか、浅くはなくて欧米人的な、違った感じ方なのか。
ヤガレク(登場人物の一人)の結末は時事ネタだったなあ。
最近、欧米の成人向けファンタジーじゃ、読む本読む本コレが出てきてかなり食傷気味です。
無論現実では全く洒落にならないことですが、ファンタジーにまで持ち込まなくったってよさそうなもんだ。
全体のからくりで言えば、超越的存在は便利だなぁ、というのはうがった読み方か。
でも、危機エンジン+コンストラクトカウンシルとやら(ネタばれではないが、このストーリーの核となるワードです)は、
自分も同じ働きのものを想定して設定したことあり。
ただ、原理が危機ではなく核融合だった。危機ってのはすごく上手いな。
自分が想定したのは原子炉と有機電子頭脳でアカシックレコード、もしくは曼荼羅の電磁計算的な概念だったので、
全く別物っちゃ別物ですけれど、やっぱりそういう概念は要るよなーと思う。


あんまりご都合主義の匂いがしないのがいい。
というのはさっきの予定調和云々の話とも関わってきますが、全ての物語はご都合主義です。
良い物語というのはご都合主義であることを上手く隠匿していることが多いものです。
もしくは、あからさまなご都合主義で書き手を絡めたメタフィクション、か。
またメタフィクションがやりたくなってきますね、こんな事言ってると。
今回の本にはメタフィクションは全くないのでご安心を。


というわけで、本の紹介だけで終わってしまいましたね。
履歴書も書きます(汗)